2007年3月21日水曜日

Paper Review #1: 1 um OCT と高分解能

A.D. Aguirre, P.R. Herz, Y. Chen, J.G. Fujimoto, W. Piyawattanametha, L. Fan and M.C., "WuTwo-axis MEMS Scanning Catheter for Ultrahigh Resolution Three-dimensional and En Face Imaging," Optics Express 15, 2445-2453 (2007) [Link to the article].

ちょっと前の Optics Express に掲載されていた MIT の OCT グループによる論文です。タイトルからもわかるとおり、主題は MEMS ミラーを使った OCT 用小型高速カテーテルスキャナーです。この主題に関しては、論文を読めばいいことなので、それ以外の読んでて少し気になったことについて書こうと思います。

一般的にカテーテル OCT では 1.3 um 帯の光がプローブとして用いられます。ところが、この論文で使っているOCTの光源(Nd:glass レーザー)は中心波長 1.06 um なのです。この 1 um 付近という波長帯、最近、眼底の OCT で注目を集めている波長帯です。この波長の光は硝子体(眼球の中身)の吸収の影響が小さいうえに、従来眼底のOCTで使われていた 830 nm よりも波長が長いので眼底の奥まで侵達・画像化できるんです。でも、この論文の主題はカテーテル。食道や血管が計測対象になるわけです。眼底用ではないんですね。ではどうして 1.06 um という波長帯を使っているのでしょうか?

これ、多分、(タイトルにもありますが)高分解能化のためだと思います。OCT では2種類の分解能を考える必要があります。一つは深さ方向の分解能。この分解能は「光源の波長幅に比例して高くなる」という性質があります。この論文で使われている Nd:glass レーザーは 200 nm 以上の波長幅がありますから、まず、この点で高分解能化が狙えます。さらに、この分解能は「光源の中心波長の二乗に比例して悪くなる」という特性もあります。つまり、一般的なカテーテル波長である 1.3 um よりも波長の短い 1 um 帯域はそれだけで深さ方向の分解能向上に貢献しているのです。しかも二乗で!

OCTのもう一つの分解能は横方向の分解能です。これは「プローブビーム幅に比例してよくなり、波長に比例して悪くなる」という特性があります。カテーテルの場合、カテーテル自体を小さくする必要があるため、プローブのビーム幅を大きくして横分解能を稼ぐ方法には限界があります。そこで、1.3 um よりも波長の短い 1 um 帯の光使うことで横分解能を 1.3 倍改善できるわけです。

ここで、「波長を短くすれば分解能が上がるならば、より短い 830 nm 帯域を使えばいいのでは?」という考えもできます。でも、830 nm まで短くなると今度は生体組織による散乱が強くなりすぎて組織の奥まで見えないのです。そういう意味で、1 um は高分解能が得られ、かつ、奥まで見える波長帯であるということが言えます。

さらに言えば、1 um 付近は生体を構成する主要要素の一つである水のゼロ分散領域ですから、1 um 帯域のOCTは分散による解像度の低下も受けにくくなります。このあたりも、高分解能を狙う上で有利に働くことになります。

ここまで、高分解能を狙うことが当然のよりに議論してきましたが、では、どうして高分解能を狙う必要があるのでしょうか?これは、カテーテルOCTの重要な応用が消化器系の癌検出にあるからだと思います。癌化した細胞では細胞核が肥大し、その形もいびつになることが知られています。つまり、OCTが高分解になり、細胞核まで見えるようになれば、生検をとらずに癌検査が行えるわけです。

今日はOCT光源の波長からここまで妄想をふくらませてみました。あくまでも安野の私見ですので、話半分できいておいてください。

Joschi

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