2007年4月22日日曜日

研究室ゼミの功罪

Social bookmark service (SBM) というのがあります。Web site を見ていて、気になるページがあったらそれをオンラインのブックマークに登録。そのブックマークをネット上で公開できる、というやつです。これを使って「研究スタッフの間で文献・技術文書の情報のい共有」ができないか、と考えています。

そもそものきっかけは「研究室ゼミ」でした。担当の学生が論文を一本選んできて、それをみんなに紹介する、というやつです。日本の大学の研究室、特に技術系の研究室では一般におこなわれている勉強会です。その研究室ゼミ、本当に意味があるの?と、ある日思ったのです。その理由は以下のとおり。

まず、論文を紹介する学生自身が必ずしもエキスパートではないこと。研究室ゼミで論文を紹介するのはほとんどの場合学生です。読んでいてい理解できないところもあるでしょうし、それ以上に「間違って理解している」という場合があります。この結果、究室全体のその論文に対する理解はその「間違った理解」で統一されてしまうことになります。各人が直接文献をよめが誰かが気づくことなのに!!

次に、研究室ゼミのせいで逆に「日頃から論文を読む癖」がつきにくいこと。まあ、研究室による差はあると思うのですが、少なくとも僕が学部の4年生の頃、僕も含め同級生たちは「論文はゼミのために読む物」というような理解をしていました。もちろん、本当は、気になった論文はその場で目を通す!が基本なわけですが。気になった事を知ることに、ゼミなんてほんとまったく関係ないのです。

最後に、「ゼミで発表する」ことを意識して「完璧」な論文読解を目指すあまり、論文を読む絶対量が減ること。ゼミ発表用に、「先生にどこを突っ込まれてもいいように」論文を読む、周りに説明できるように「日本語に訳す」こういう重要でない中間目的がどんどん時間を浪費させていきます。「日本語に全文訳」なんてことはさすがにないと思うのですが、英語の論文を日本語で的確に説明できるように準備すること自体、普通に論文を読むのの何倍も時間がかかります。「言葉を理解すること」はその言語圏に住んでいる人間ならだれでもできますが、「言葉を翻訳すること」は素朴な日常では要求されない特殊なスキルなのです。そして、なんだかんだで最終的に「時間がないので論文を読めない」という事態に陥ります。本末転倒です。

そんなわけで、僕たちの研究グループでは「研究室ゼミ」は行っていません。週に一度の進捗報告ミーティングがあるだけです。実際、「研究室ゼミ」を廃止してから、みんな以前よりずっと論文を読むようになりました。学生もスタッフも気になる論文が出たら、たとえアブストだけでも、すぐに目を通します。もちろん、重要な論文はすぐに本分まできちんと読みます。そして、オフィスでの雑談のなかでその論文に対する意見交換をするのです。確かに、一人で読んでいるわけですから誤読もあるわけですが、全員が同じ論文を別個に読み、そして意見交換することでそういう誤読も訂正できるわけです。さらに、新しく研究室に入った学部の4年生は「論文は自分で勝手に読むもの。そうしないと雑談にもついていけない」という常識がすりこまれます。

このゼミ廃止とそのカウンターによる読む文献数の増加、かなりうまくいったのですが、ひとつ問題がみつかりました。一人がたまたま見つけた「その時点で緊急性のない論文」が他のスタッフの目に触れない、という問題です。例えば、誰かが論文誌をぱらぱら見ていて、面白い、でも、今の仕事と直接関係ない論文を見つけたとします。もし、研究室ゼミがあったら、そいういう論文はきっと紹介されるでしょう。だって、他の人はたぶん読んでないわけですから、みんなに「紹介」するにはうってつけです。でも、逆に、ゼミがなければ、そんな論文のこと人にはいわないんですね。わざわざ人を捕まえて教えるほどの緊急性はないわけだし、なにより、人に言う前にわすれてしまうわけです。でも、以外にそういう論文に転機が隠れてたりするわけです。隣の席で座ってるやつの研究テーマを発展させるようなきっかけが。

そんなこんなで、「研究室ゼミ」をやらずに、「より効率的に文献情報を共有するには」ということを考えました。その一つの答えが「social bookmark (SBM)の利用」です。たぶんどこでもそうだと思うのですが、最近は紙の論文誌で論文を探すことなんてありません。論文誌の新しい号が出たら、それを自動配信のメールか RSS の更新で知って、ネット上で目次を読む、というのが普通でしょう。もちろん気になる論文もネットでダウンロードするわけです。

そこで、気になった論文を SBM に登録して公開することを考えました。さらに、研究室の仲間に公開する文献には常に同じ tag をつけるようにします。たとえば MyProfession とか。で、研究室のほかのメンバーは僕 SBM の中の MyProfession tag の RSS を各自の RSS リーダーに登録しておくわけです。これで、僕が見つけた気になる論文は全部研究室の人間の眼にとまることになります。声なんかかけなくても。さらに、はてなブックマークLivedoor clip を使えばブックマーク登録時にコメントを付加できますから、簡単な要約や意見をつけてより強く他のメンバーの気をひくこともできます。それを見たメンバーは、タイトルなり要約なりを見て続きをみることもできますし、しかとするのも自由です。この「しかとできる」というのが重要なのです。相手がしかとできるからこそ、相手の都合も考えず、みつけたものはとにかく知らせられるのです。きまずい思いなしに。また、さらには、「見つけたけどまだ読んでない論文」や、「自分は大して興味ないけど、きょっとしたら別のだれかは興味をしめすかも」という論文を「人目につけさせる」ことができます。そして、これを研究室全体でやることで、文献情報が共有できる、というわけです。また、この方法、RSS リーダーも SBM も、今現在それぞれのメンバーが使っているものをそのまま利用できますから、ユーザートレーニングが不要というメリットがあります。

この「SBM 仮想ゼミ」、実は僕たちの研究グループでもまだ始めてみたところです。はたして効果が出るかでないか、僕としては興味津々です。なにか面白い状況になったら、そのうち報告したいと思います。

Joschi

追記
最近医学部のゼミに参加するようになり「やりようによっては研究室ゼミも有意義なものにできるかも」と思うようになりました。この話はまた後日。

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