2007年5月3日木曜日

4,500万円で買える物

この原稿、しばらく前に書いたのですが、公開するかしないかかなり悩みました。これを掲載することで、僕自身の立場も悪くなるのかもしれません。でも、昨今の僕か見える風景を「うん!」と感じていると、やはり、誰かが声を出さなければいけないのではないかと思います。この原稿を読んで不快に思う人も多います。僕は、僕の意見がただ一つの正しい意見だとは思いません。もし、この原稿を読んで、途中で不愉快だと思う人がいれば、どうか、その場で読むのをやめてください。もし、最後まで読んでくれた人がいれば、どうか、これをきっかけに考えてみてください。何を考えろというのではなく、いままで自分が考えなかったことを、これを機に考えてみてください。それでは、始めます。



銭ゲバを自称する僕は、なんでもお金に換えて考えます。会議で人を拘束する時間、出張の移動にかかる交通費と時間コスト、スタッフのコミュニケーション量が半分になると年間いくらの損失になるのか?とか。それでは質問、人の命の値段っていくらぐらいでしょうか。

僕はいつも一人頭4,500万円で計算しています。意外と安いですね。でも、まあ、こんなもんですよ。人の命なんて。

昔、僕にとってとても大切だったある人は 4,500万円を工面するために遺書を書いてどこかにいなくなってしまいました。たぶん死んでるでしょうけど、未だに死体は見つかっていません。死ねば保険金でもおりるとおもったのでしょうか。だとしたら浅知恵ですね。失踪は7年しないと死亡認定もされず、保険金もおりないのです。死ぬんだったら見つかるように死なないと。だからその死には何の意味もないのです。意味はないのだけれど「4,500万円のために一人の人間がいなくなった」という事実は変わることはありません。

それ以来、僕の中では、人ひとりの命の値段は4,500万円です。国から研究費が配分されると、すぐに「命」の単位に換算して考えます。一億三千万の予算だったら、人の命およそ3人分です。ほんとのところはわからないけれど、僕の頭の中の世界では、その予算を動かす税金を納めるために3人の人間が死んでいるのです。ちょっと矛盾しているようですが、働けば働くほど赤字になってしまって、結局そのために死んでしまうような、そんな生活をしている人でも、いや、むしろそういう生活している人ほど、たっぷり税金を払うということもあるのです。世の中一筋縄ではいかないのです。

僕たち国立大学で働く技術屋の仕事は、そういう人の命を燃料にして動いているんだと、僕はいつも、そんな窮屈なことを考えています。だからせめて、燃費を上げたいのです。3人の命を燃料にした研究なら、その結果、少なくとも3人の命を救うように。もっとたくさんの人を幸せにするように。たぶん、ただの自己満足なのですが、せめてそれを目標にしたいと思っています。

もし「予算を獲得する」ことが成果だと思っている研究者がいたら、たまには、その予算のもとになっている税金を払うために、自分の命を金に換えている人がいることも考えてあげてください。

たぶん、頭のいい研究者の人たちからみると、ばかな人生に見えるのかもしれません。でも、僕の生きてきた周りには、愚直なまでにまじめで、僕たち研究者を心から信頼してくれて、そのために自分の人生を犠牲にしてでも僕たちを支援してくれているような、そういう人がたくさんいました。僕には、そういう人がばかだとは思えません。

日本は意外と福祉制度が充実していて、いざとなれば生活補助で生きていけます。でも、やっぱり、どんな時でも、そういう支援からもれてしまうような、そういう生活って、あるのです。逃げ道があるのに、それに気付かないぐらい近くしか見えなくなるような、そういうつらさもあるのです。理屈はいろいろあるのでしょうが、つらいものは、つらいのです。

いたずらに予算を獲得することが成果だと思うのは、どうかやめてください。「余った予算を消化する」というような不潔な言葉は、どうか使わないでください。「自分たちが使わなければ他の人間が使うだけ」というような予算があって、そして、自分たちが本当はその予算が必要でないなら、どうかそのお金は使わないでください。みんながそうして使わなければ、最後にはきちんと必要な人に渡るはずです。そうならないかもしれないけれど、あなたが無駄につかってしまったら、その命は、そこで終わるのです。もし予算があまって、全然必要ないものを買うぐらいなら、どうか勇気をもって、その予算を返還してください。ブラックリストに載るかもしれませんが、人の命を浪費するよりはましです。

たくさんの税金を動かしている人たちは、どうかもっと、あなたたちの動かしているお金のことを好きになってあげてください。それは、「予算」という仕事の道具ではなくて、お金という形をした人の命だからです。予算を配分する前に、自分の大切な人が身を粉にして働いて払った税金を、本当にその人たちにあずけていいのかどうか、きちんと考えてください。そして、そのお金を誰かに預けたら、それがきちんと世の中をよくしていくかどうか、最後まで目をそらさないでください。

成果を報告する研究者の人たち。どうか、嘘はやめてください。ほんとは他より劣っている技術しかできていないのに、それをすごいことのように報告するのはやめてください。そんな嘘をついても、人の命は救われません。自分たちが一生懸命働いて、それでもその予算が無駄になってしまったら、その事実をきちんと受け止めてください。そして、次またがんばればいいのです。そのためにも、まず、事実を受け止めてください。

人の命は、お金には換えられません。でも、それが換えられてしまう世界もあるのです。僕たちは人の命を使って仕事をしているのです。

Joschi

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